第5回研究会の開催報告

研究会報告

第5回 フランス抒情詩研究会 報告

2023年9月11日(月)、慶應義塾大学日吉キャンパスにて、第5回フランス抒情詩研究会が開催されました。今回の報告は、当日司会を務めました中山慎太郎(跡見学園女子大学 専門:フランス現代詩、とくにジャック・デュパン、フィリップ・ジャコテ、ジャック・レダ)が担当したします。

 

第5回研究会は、アンドレ・ブルトンがご専門の前之園望さん(中央大学)に、以下の題目でご講演いただきました。

 

・重層化する抒情性――アンドレ・ブルトンにおける詩法の変遷

 

発表者を含め10名の参加があり、なかには前之園さんの教え子である学部生も参加されました。今後も、この研究会に興味をもった若い方の参加をぜひお待ちしています!

 

とうとう本会でシュルレアリスムを取り上げることになり、ポスト・シュルレアリスムの世代を研究するものとして、この日を大変楽しみにしていました。というのも、イヴ・ボヌフォワ、ジャック・デュパン、フィリップ・ジャコテ、ドゥニ・ロッシュ等、第二次世界大戦後の多くの詩人たちは、詩と現実の関係の問題、詩における発話主体の問題、詩におけるイマージュの問題といった、シュルレアリスム詩学によって主題化された問題に対峙せざるを得なかったからです。

今回の講演は前半と後半に分けられ、前半は各時代の詩法の特徴とその射程、後半は、その理論の解説をもとに具体的な詩作品、「ポエム-オブジェ」の分析がなされました。

まず前半。「自動記述」に注目が行きがちなブルトンの詩法ですが、それだけには留まらないブルトンの詩法もふくめて、その変遷が3つの時期に分けて説明されました。

 

1.1920年代後半:自動記述⇒出会いの詩学/二律背反の乗り越え

2.1930年代後半:ポエム・オブジェ⇒見立ての詩学/「現実」の上書き

3.1940年代後半:詩的アナロジー⇒多重化の詩学/「現実」の流動化。

 

その上で、3つの時代の詩法が重層化していくことが鮮やかに論じられました。「自動記述」に見られる「現実」をゆさぶる詩法は、もうひとつの「現実」で上書きし、「現実」を潜在状態に戻す「ポエム・オブジェ」の詩法へと受け継がれ、そして、言葉と日用品などのオブジェを組み合わせ、詩を現実空間に接続させる「ポエム・オブジェ」の詩学は、「現実」に干渉し、流動化させる「詩的アナロジー」へと受け継がれているということです。こういった重層化は、ブルトンによく見られる、散文作品で得られた知見を詩に、そして、詩で得られたイメージを散文に使うといった往復運動とも重なりあうように思われます。

そして講演の後半では、「自動記述」時代の『溶ける魚』の散文詩の一篇と、「ポエム・オブジェ」 « Je vois j’imagine »が、前半で解説された理論の実践として、具体的かつ緻密に分析されました。

 

ブルトンにおける「イマージュ」の詩学、言葉の世界を現実へと開いていく詩学などについて論じられるなかで、現代詩を研究するものとしては、シュルレアリスムとの対峙を避けることができなかった第二次世界大戦後の詩人たちとの争点を明確にすることができました。また、より広い視野においては、現実のみならず、自己を多重化していくブルトンの詩学は、抒情的主体の問題系とも連結できるように感じています。

最後に。どうしてもシュルレアリスムについて語られる際には、その理論の難解さ、また、詩作品の不思議さもあってか、理論とその射程の分析に終始しがちなところありますが、前之園さんのご講演は、そこを重要視しながらも、具体的に「作品」を読む楽しみが伝わるご講演でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました